Skip to content

株式投資のためのプラットフォームビジネス概論

   

近年、プラットフォーム戦略やプラットフォームビジネスが注目を集めています。
今回はプラットフォームビジネスと、そういったビジネスモデルを持つ企業への投資について分析・考察しました。

プラットフォームビジネスとは

プラットフォームビジネスの定義

プラットフォームビジネスとは、何らかの分野に特化した価値のあるプラットフォームを提供するビジネスモデルです。
プラットフォーム戦略、プラットフォーム型のビジネスモデルとも言われます。
プラットフォームを運営する事業者はプラットフォーマーと呼ばれ、プラットフォームの利用者はプレイヤーと呼ばれます。
プラットフォームビジネスの収益源は、プレイヤーから得られるプラットフォーム利用料です。
できるだけ多くのプレイヤーにプラットフォームを利用してもらうため、プラットフォーマーはプラットフォームの価値の最大化に注力します。

プラットフォームビジネスの本質は「場」の提供

プラットフォームビジネスの本質は「需要と供給をマッチングする場を提供する」ことにあります。
中でも多いのは取引市場を提供するパターンで、プラットフォームビジネスによって様々な市場取引が実現されています。
この「市場取引」は相対取引に比べて大きなメリットがあります。

相対取引とは1対1の取引です。
相対取引ではまず取引相手を探す必要があるため、すぐに取引することが難しくなります。
また相対取引では取引価格が相場に比べて適正かどうかが分かりづらく、価格交渉も必要となります。

市場取引では市場の中から取引相手を探すことができますので、取引相手が見つかりやすくなります。
また需要と供給によって適正な市場価格が形成されるので、値段交渉などの手間もかからないというメリットがあります。
このように市場取引は迅速な取引を、適正な価格で実現できるという点で、相対取引よりも優れています。
こうした理由により、プラットフォームビジネスによってあらゆる分野の市場化が進んでいるのです。

インターネットで加速するプラットフォーム化

近年、プラットフォームビジネスが特に注目を集めている背景にはインターネットがあります。
プラットフォームビジネスの本質が需要と供給をマッチングさせる「場」の提供であることを考えると、プレイヤーが多いことは特に重要となります。
一方、インターネットは日本全国や世界中の人をプレイヤーとして巻き込むことができるため、プラットフォームビジネスと非常に相性が良いのです。
このため、従来では成立し得なかったようなニッチ分野の取引市場も、インターネットによって実現できる可能性があるということです。

特に最近はスマホの普及などもあり、誰でも容易にインターネットへ接続できるようになったこともプラットフォームビジネスを後押ししています。
今後もインターネットのインフラが発展するにつれ、インターネットを活用したプラットフォーム化はますます進んでいくものと思われます。
 

プラットフォームビジネスの事例

ECモール

ECモールは、個人や企業が自由にネット通販の店舗を出店できるシステムで、具体的には楽天市場、ヤフーショッピングなどがあります。
プレイヤーは店舗、会員で、主な収益源は店舗からの出店料、ロイヤリティ(売上の○%)、広告料などがあります。
各店舗の売上データや全体的な売上、消費動向などのデータを蓄積することができます。
これらのデータは店舗向けのコンサルティング業務にも活用されていると考えられます。
もっとも、コンサルティングは広告出稿を促進させる、営業の役割も兼ねていると思われますが…。

また、楽天市場では楽天ブックスや楽天24といった直営店を出店していますが、これも蓄積されたデータの活用の一つだと考えられます。
プラットフォーマーがプレイヤーとしても参入することには賛否ありますが、おそらく本や生活用品の売上データを元に、利益が見込めると判断して出店したものと思われます。

クレジットカード

クレジットカード会社はインターネットが普及する前から存在していますが、プラットフォームビジネスです。
クレジットカード会社は、消費者が小売店でキャッシュレス決済可能なサービスを提供しています。
プレイヤーはクレジットカードのユーザーの他、小売業者、DM(ダイレクトメール)を出したい企業などです。

主な収益源は、クレジットカード決済時に小売店が負担する決済手数料です。
この他にも、DMを出したい企業(保険会社など)から得られる広告手数料も収益源となっています。
蓄積されるデータの活用としては、会員向けの販売促進などのキャンペーンがあります。
クレジットカード会社は会員の属性や消費傾向が把握できるので、小売業者に広告効果や販促効果を売り込みやすくなります。

C2C(消費者間取引)サービス

C2Cとは消費者同士が直接取引を行うサービスで、具体的にはヤフオク、メルカリ、minneなどがあります。
これまでは中古品の売買やハンドメイド作品の販売には中古ショップやフリーマーケットが一般的でした。
消費者同士が直接取引できるようになったことで、中古ショップに取られるマージンがなくなるメリットがあります。
また、フリーマーケットはイベントなどで短期的に開催されることが多いですが、ネットでは常に販売することが可能となりました。
プレイヤーは商品の買い手、売り手です。
主な収益源は、売り手から得られる販売手数料(売上の○%)となっています。
 

事例に見るプラットフォームビジネスの3つの特長

多数のプレイヤーを巻き込むほど価値が向上する

プラットフォームビジネスではプレイヤーが増えるほどプラットフォームの価値が向上します。
そしてプラットフォームの価値が向上することで、プレイヤーが増えやすくなるという好循環が生まれます。
例えば、ECモールでは「店舗」と「会員」という2種類のプレイヤーがいます。
店舗が増えれば、会員にとっては品揃えが豊富になり、少しでも価格の安い店で買うことができるのでを選びやすくなります。
会員が増えれば、店舗にとっては潜在顧客が増えるので、出店するメリットが高まります。

このような好循環の結果、プラットフォームビジネスでは一人勝ちが起こりやすいという特徴があります。
この理由は単純で、消費者目線で考えれば最も大規模なECモールで探したほうが見つかりやすく、安く買える可能性が高いからです。
逆に店舗目線で考えれば、最も大規模なECモールに出店したほうが潜在顧客が多くなるからです。

ストックビジネスに匹敵する安定した収益性

プラットフォームビジネスは、ストックビジネスのように安定した収益性を発揮することが多いです。
その理由は、プラットフォームの市場規模に応じた収益が入る構造となっているためです。

例えば楽天市場のようなECモールを例に挙げます。
ECモールの出店店舗は注文ごとに売上が入りますが、売上に応じた手数料をECモールへ支払っています。
ECモールに入っている店舗はフロービジネスであり、店舗同士は競争に晒されています。
しかし、ECモールの運営者(プラットフォーマー)はどの店舗で売れたかに関わらず、売上に応じたロイヤリティを得られるのです。
また多様な店舗が出店されていることによりリスクが分散され、特定ジャンルの売上が落ちてもプラットフォーマーとしては影響を受けにくいのです。

このようにプレイヤー同士は競争の関係にあることが多いですが、プラットフォーマーはプレイヤーとの競争には巻き込まれずに収益を上げることができるのが特徴です。
また、プレイヤーに比べるとリスクが分散されることで、安定した収益性を発揮できるのです。

市場データの蓄積・活用

プラットフォームを利用されることで、プラットフォーマーはその市場のデータを蓄積することができます。
例えばECモールでは、売上動向から人気商品やブーム、トレンドなどの消費者動向を把握することができます。
得られた市場データは、コンサルティング業務や新規事業計画、他社への販売などに活用することができます。
こういった生のデータは一般に入手が難しいため、プラットフォーマーにとっては大きな優位性となります。
 

プラットフォームビジネス銘柄の将来性を見極める3つ視点

プラットフォームビジネスを手がける企業は数多くあります。
私がプラットフォームビジネスの銘柄を分析する際、特に意識している3つの注意点を紹介します。

本質的にプレイヤーへ価値を提供しているか?

プラットフォームビジネスの特徴として「多数のプレイヤーを巻き込むほど価値が生まれる」ことを挙げました。
しかし一方で、競争を煽れば煽るほど利益が生まれるという構図になることが多いという側面もあります。
過剰に競争を煽るプラットフォーマーは、プレイヤーが疲弊してしまい長続きしなくなる可能性があります。
例えばECモールが店舗間の競争を煽りすぎた結果、値下げ競争になったり、広告料があまりにも嵩むようであれば、出店のメリットはなくなり撤退してしまうでしょう。

プラットフォーマーとプレイヤーの間で良好な関係を維持すること、そのためにはプレイヤーに対して本質的に価値が提供されていなければなりません。
プラットフォーマーが一方的に搾取するだけの構造になってしまっては、長期的にはマイナス方向へ働く可能性があります。

プレイヤーが乗り換えしづらいプラットフォームか?

プレイヤーが他のサービスに移りにくい特徴がある方が優れています。
これはストックビジネスの視点と同じで、プレイヤーをどれだけ積み上げてキープし続けるかが重要であるためです。
ECモールを例に挙げると、会員(消費者)は非常に容易であり、店舗はやや困難、といったところでしょうか。

会員にとって別のECモールで購入することを妨げる要因は、せいぜいポイントによる囲い込み程度だと思われます。
一方、店舗が別のECモールへ移行するには、サイトやデータの移行、セットアップなどで大きな手間がかかりますし、今までのリピーターを失ってしまう可能性もあります。
したがって店舗にとっては別のECモールへ移行するのは、やや困難といえます。

このように、プレイヤーが簡単に移れるようなプラットフォームビジネスであるほど、長期的な収益の安定性にリスクがあります。

競争力のあるプラットフォームかどうか?

競争力はプラットフォームビジネス以外でも重要ですが、一人勝ちの起こりやすいプラットフォームビジネスでは特に重要です。
具体的には参入障壁の高さや、現在のシェアの高さ(プレイヤーの多さ)、上で紹介した「プラットフォームの乗り換えやすさ」も競争力に含まれます。
「現在のシェアの高さ(プレイヤーの多さ)」が競争力に含まれるのは、プラットフォームビジネスではプレイヤーが多いほどプラットフォームの価値が増すという特徴があるためです。

例えば[8697] 日本取引所グループは競争力の高いプラットフォームビジネスと言えるでしょう。
証券取引所は株式などの取引市場を提供する、プラットフォームビジネスです。
そもそも証券取引所への参入障壁自体が高いですし、現在の地方証券取引所との銘柄数・取引量は圧倒的な差があります。
現状では、既に東証に上場している企業にとって、他の証券取引所にも併せて上場する理由はほとんどありません。
 

まとめ

プラットフォームビジネスとは「場」を提供するビジネスです。
プラットフォームビジネスにはプレイヤーが増えるほどプラットフォームの価値が向上する、安定した収益性を発揮する、という特長があります。
ただしプラットフォームビジネスだからといって、必ずしも魅力的な投資先となるわけではありません。
投資する前には長期的な視点から、将来性や安定性、競争力なども考慮して投資判断を行うことをオススメします。

関連記事

  1. フロービジネスとストックビジネスの特徴に見る投資戦略
  2. 電子書籍が破壊する既存の市場と、競合するサービス
  3. 電子書籍のコスト構造と価格戦略
  4. ビュッフェに学ぶ、満足度の高いセルフサービス
  5. ジェフグルメカードのビジネスモデル
  6. 平日のランチが安い理由
  7. [8252] 丸井グループ:カード事業が主力の小売業