現在の社会において、子供料金は当然のように使われています。
実際、消費者の属性情報に基づいて価格をパーソナライズすること自体は珍しくありません。
今回は価格戦略の観点からなぜ子供料金が設定されているのか、その背景にある理由と妥当性を考察しました。
理由1:機会損失の防止と収益の最大化
一つ目はメインのターゲット顧客層ではないことにより、料金を安めに設定しているパターンです。
例えば、美術館や博物館は大人がメインのターゲット顧客であり、子供が自分から行きたいと考えることは少ないです。
そのため、もし子供料金が設定されていない場合、①子供を親戚の家に預けて大人だけで行く、②子供の料金が多くかかるから行くのを諦める、と言ったことが起こり得ます。
このとき、①は潜在的な需要(子供)に対する機会損失、②は大人・子供双方に対する機会損失となります。
しかし、割安な子供料金を設定することで子供を連れて行きやすくなれば、①、②のいずれのケースにおいても子供料金の分だけ売上は増加します。
特に②のケースでは大人料金の機会損失を防ぐことができるので、売上に大きく貢献することになります。
子供料金が無料に設定されているようなケースは、明らかに②を想定していると考えてよいでしょう。
このように割安な子供料金を設定することは、機会損失を防ぐ面から非常に有意義であることが分かります。
また、子供を連れてきてもらうことは将来的なリピーターを育成する効果もありますが、これについては後述します。
ちなみに、子供がメインターゲットである施設やサービスではむしろ子供料金の方が高くなる場合もあります。
例えばキッザニアは子供が職業体験をすることのできる商業施設ですが、大人は体験できず、見学したりラウンジで待機したりすることになります。
キッザニアの料金設定は以下のように大人料金の方が安くなっており、一般的な子供料金とは逆転していることが分かります。
平日第1部 平日第2部 休日第1部 休日第2部 H.S第1部 H.S第2部 園児(3歳~) 3,550円 2,950円 4,200円 3,250円 4,800円 3,700円 小学生 3,950円 3,250円 4,700円 3,550円 5,400円 4,050円 中学生 4,050円 3,350円 4,800円 3,650円 5,500円 4,150円 大人(16歳~) 1,950円 1,950円 1,950円 1,950円 1,950円 1,950円 シニア(60歳~) 950円 950円 950円 950円 950円 950円
理由2:リピーター育成による生涯顧客価値の最大化
子供料金を設定することで連れて行きやすくなることは理由1で述べた通りですが、これは生涯顧客価値の観点で見ても合理的であると言えます。
これは様々なものに当てはまりますが、特に顕著な例としてスキーが挙げられます。
スキーが滑れる人は毎年のようにスキーに行く人が多く、1シーズンに何度か行く人も珍しくありません。
一方、スキーが滑れない人が自分からスキーに行きたいと思うことは珍しく、友人に誘われても断ってしまうケースも多いでしょう。
スキーが滑れる人と滑れない人を比較すると、その大きな要因は「子供の頃から家族でスキーに連れて行ってもらったかどうか」にあります。
すなわち、子供の頃からスキーに連れて行ってもらった人はスキーが滑れるようになり、将来に渡って利用してもらえる顧客となる可能性が高いのです。
その上、その子供もスキーに連れて行かれることで何世代に渡って利用してもらえる可能性があります。
このことを考えれば、子供料金を設定して連れて行きやすくすることは極めて合理的であるといえるでしょう。
子供料金を設定することでリピーターになってくれる可能性が高く、それが何世代にも渡って収益をもたらす可能性があるのです。
理由3:法的な根拠
鉄道では価格戦略とは関係なく、法律に基づいて子供の料金が半額とされています。
具体的には、鉄道運輸規定の第10条で以下のように定められています。
第十条 鉄道ハ旅客ノ同伴スル六年未満ノ小児ヲ旅客一人ニ付少クトモ一人迄無賃ヲ以テ運送スベシ○2 割引乗車券ヲ以テ乗車スル旅客又ハ乗車位置ノ指定ヲ為ス列車若ハ客車ニ乗車シ特ニ小児ノ為其ノ座席ヲ請求スル旅客ニ付テハ鉄道ハ前項ノ規定ニ依ラザルコトヲ得○3 鉄道ハ十二年未満ノ小児ヲ第一項ノ規定ニ依リ無賃ヲ以テ運送スルモノヲ除キ大人ノ運賃ノ半額ヲ以テ運送スベシ○4 前項ノ規定ニ依ル運賃ニ十円未満ノ端数アルトキハ鉄道ノ定ムル所ニ依リ切上ゲ計算ヲ為スコトヲ得
この法律制定時の根拠は分かりませんが、基本的に子供は保護者が付き添うものなので、経済的な負担を軽減するために半額とされたと考えられます。
当時とは社会事情の異なる部分もあるかもしれませんが、現在でも一般に受け入れられており問題も起きていないため、見直されることなく運用されているということでしょう。
まとめ
子供料金は、消費者の属性情報に基づき異なる価格を提示する価格戦略の一つです。
子供料金を設定する目的は機会損失の削減や、顧客生涯価値の最大化などがあります。
したがって、子供だからといって必ずしも割安になるものではありません。
鉄道のように法的根拠によって子供料金が定められているものもありますが、サービス業においては子供料金を目的や戦略に基づいて正しく行うことで、機会損失の防止や収益の最大化が実現できます。
身の回りのサービスにおいて、子供料金が設定されている意図を考察してみると、面白い発見があるかもしれませんね。