私は日本のIT業界、特にシステムインテグレーターについてあまり明るい将来性を感じていません。
今回はなぜ私が日本のIT業界に将来性を感じないか、まとめました。
柔軟な雇用調整ができない終身雇用制度
日本では原則的に終身雇用が法律で定められています。
これはIT業界に限った話ではありませんが、雇用調整が難しいことはIT業界にとって大きなデメリットがあります。
ユーザーの投資回収が困難
IT技術の本質は、生産性向上と自動化推進による人件費削減です。
そのためITシステムに投資することで、企業は人件費を削減できることになります。
しかし日本では終身雇用が法律で定められているため、実際には人件費が削減できず、投資回収が見込めない場合があります。
例えば導入費用が600万円のシステムを考えてみます。
このシステムによって年間600万円かかる従業員を1人削減することができれば、単純計算で投資コストは1年で回収できます。
しかし雇用調整の難しい環境では、従業員1人を別の業務に回す必要が出てきます。
もちろん別の業務に回せる分だけ生産性は向上しますが、従業員の業務の適性などもあるので一概には言えません。
日本でのIT投資が活発でない理由はこれだけではなく、例えば経営陣がITの重要性を認識していないなどの理由も多いでしょう。
しかし投資の効果が見込みにくいということは、大きな一因になっていると考えられます。
システム開発における一時的な雇用が困難
日本では自社でITシステムを開発するという考え方を持つ企業が非常に少ないです。
これは開発に向けた一時的な雇用が難しいことが一因で、日本ではITシステムはほとんど外注することが一般的となっています。
このことは一件合理的に見えますが、自社開発しないことはITシステムの主導権を外部に依存することになります。
またITシステムのユーザビリティなどは要件としづらい部分ですが、生産性に直結する部分です。
すべて外注してしまうとこういった部分を納品後に変更することが難しく、柔軟性の乏しいシステムとなります。
その結果、開発したシステムが十分な生産性向上につながらない可能性も出てきます。
また日本のIT業界では多重下請構造や派遣事業が一般的で非常に多くみかけますが、これも雇用調整ができないことが一因となっています。
しかし多重下請構造や派遣事業は、どちらも本来受け取るべき対価が中間層によって搾取される構造となっており、健全であるとは言えません。
このような環境は優秀な人材を確保できなくなるなど、長期的な視点では業界の発展を阻害する要因となります。
変化を受け入れない保守的な文化
日米に見る文化の違い
日本には保守的な文化が根付いており、これがITによる変化を受け入れない大きな一因であると考えられます。
このことは、京都大学の林晋という教授の方が書いた「あるソフトウェア工学者の失敗 日本のITはなぜ弱いか」にて触れられており、非常に印象的であった部分を以下に引用します。
ソフトウェア開発に携わっている方は共感できる部分が多いと思いますので、一読することをオススメします。
そういう時に、新しいものを理解できない旧世代は、新しいものに抵抗しようとする。「なんだ鉄を作っているのではないのか」という一言は無意識の内の自分が理解できないものへの抵抗と見るべきだろう。日本社会という安定・安穏に寄りかかりたいという傾向を強く持つ社会が、現代の様に満ち足りた状態に置かれていれば、新しいものを拒否しようとするのは当然である。
これに対して、パロアルトが象徴するアメリカのある部分は、如何に豊かであろうとも、常にイノベーション・革新を求めて、先に先にと進もうとする。よしんば、世界中の富の大半を手中に収めていても、もし富をさらに拡大できるのならば前に進む。前に進むこと、努力すること、変わることが善だ、今可能なのに、それをしないことは怠慢であり罪悪だ、そういう彼らの倫理観・美徳観が、そうさせるのであり、金銭欲がそうさせるのではない。日本のITの問題は、実は技術の問題ではなく、文化・社会の問題だったのである。
林晋、あるソフトウェア工学者の失敗 日本のITはなぜ弱いか
特に「アメリカでは変わることができるのに、それをしないことは罪悪とみなす文化」というのが印象的でした。
日本では失敗すると責められるような印象が強いので、見習うべき点であるといえるでしょう。
こういった保守的な文化は、現場がシステム化を受け入れなかったり、ワークフローの変化を拒否したりします。
そもそも変化を受け入れないということは、IT業界そのものを否定していると言えるでしょう。
このような文化はIT業界にとって逆風であり、この環境下でどこまで発展できるのかが疑問です。
独自仕様のオーダーメイドが乱立する市場
日本が変化を受け入れない保守的な文化であることは前述の通りです。
そのため日本では現場がワークフローを変えることを嫌がり、できるだけ今のワークフローを維持することを求める傾向があります。
その結果、パッケージ製品でもカスタマイズが多くなったり、独自仕様のオーダーメイドシステムを希望するケースがあります。
オーダーメイドのソフトウェアやシステムでは、以下のような特徴があります。
- ゼロから作る必要があるため、開発コストが大きくなる
- 開発コストが大きくなるため、開発失敗のリスクが大きくなる
- 売上の大半を開発費(人件費)が占めることとなり、限界利益率が低い
一方、パッケージ製品では以下のような特徴があります。
- パッケージ部分は共通化されているため保守開発が容易で、信頼性も高い
- パッケージ部分を機能拡張していくことで、製品の競争力が高まる
- パッケージ部分の開発費は複数のユーザーで負担するコスト構造となる
- 売上に占める開発費(人件費)の割合が低くなり、限界利益率が高い
特に重要なのは、オーダーメイドに比べてパッケージ製品は圧倒的にコスト構造が優れていることでしょう。
このことによりベンダーにとっては利益率が高まり、ユーザーにとっては安価に導入できる可能性が生まれます。
しかしパッケージ製品が市場受け入れられにくいことは、ベンダー・ユーザーの双方にとって非効率的であると言えるでしょう。
システムやソリューションは利益率が良いと言われますが、それはこのようなパッケージ製品を活用してこそだと考えています。
オーダーメイドばかりが蔓延しているようでは、いずれ海外ベンダーから優れたパッケージ製品が安価に提供され、すべて置き換えられてしまう可能性があります。
まとめ
今回は日本のIT業界における課題についてまとめました。
雇用調整ができないことや保守的な文化は、IT企業に非があるわけではありません。
しかしそれらが日本のIT業界において業界の発展を妨げる、本質的な問題となっています。
日本のIT業界全体の将来性に不安はありますが、国際競争力を高めるためにも、ITによる生産性を高めていくことは極めて重要です。
このためにできることといえば、その中でも将来性のあるIT企業を応援するために投資していくことでしょう。
次回はそのような日本のIT業界においても、将来性のありそうな企業についてまとめたいと思います。