これは、配当(インカムゲイン)に主軸を置きつつも、譲渡益(キャピタルゲイン)を狙う戦略です。
「配当銘柄に投資していたら値上がりした場合」の判断基準としても有用です。
戦略の概要
この戦略では、配当利回りが4%以上の高配当銘柄をターゲットにします。
そして基本的には長期保有というスタンスで臨みますが、20%以上の利回りが出た場合は利益確定します。
こうすることで、長期保有の場合はインカムゲインが、値上がりした場合はそれまでのインカムゲイン+キャピタルゲインが得られることになります。
この戦略は、配当利回りが4%程度で、毎年継続的な収益が見込める
- 配当利回りが4%以上
- 企業の収益が安定していること(ストックビジネスなど)
- 株価が下落していく要因がないこと(市場が極端な縮小傾向でないこと)
この戦略を支える3つの観点
この戦略は、大きく以下の3つの視点で考えられています。
- 株価上昇により、配当利回りはどのくらい低下するのか?
- 何年分のリターンが前倒しで回収できるのか?
- どのくらい投資の機会が拡大するのか?
これらについて、順に説明します。
観点1:株価上昇により、配当利回りはどのくらい低下するのか?
当然と言えば当然なのですが、株価が上がれば上がるほど配当利回りは下落します。
以下の表は、株価の変動によって配当利回りがどのように変動するかをまとめたものです。 配当利回りが魅力的な銘柄は4~5%程度ですので、その辺りを見るとよいでしょう。
購入時の配当利回り | 5%値上がり後 | 10%値上がり後 | 20%値上がり後 | 50%値上がり後 | 100%値上がり後 |
---|---|---|---|---|---|
1.00% | 0.95% | 0.91% | 0.83% | 0.67% | 0.50% |
2.00% | 1.90% | 1.82% | 1.67% | 1.33% | 1.00% |
3.00% | 2.73% | 2.73% | 2.50% | 2.00% | 1.50% |
4.00% | 3.81% | 3.63% | 3.33% | 2.67% | 2.00% |
5.00% | 4.76% | 4.55% | 4.17% | 3.33% | 2.50% |
これを見てどのように感じるかは個人差があると思いますが、個人的には配当利回りが4%であっても、株価が20%値上がりするだけで配当利回り3.33%になり、大きく下落したと感じます。
特に50%値上がりして2.67%にもなれば「あれ、高配当銘柄に投資しているんじゃなかったっけ…」という気持ちになりそうです。
配当利回りの低下率に基づく定量的な最適解はまだ見つけられていませんが、定性的には総合的な判断材料として十分活用できると考えています。
観点2:何年分のリターンが前倒しで回収できるのか?
これは最も重要な観点だと考えており、含み益を利益確定することで、何年分の配当が前倒しで回収できるのかということです。
前項にて、「配当利回り4%の銘柄が20%値上がりすると、配当利回りは3.33%に下落する」という例に言及しました。
同様に配当利回り4%の銘柄が20%値上がりした場合を考えると、5年分のリターンが即座に得られることになります。
配当利回りが3.33%に下落していることを考慮すると、6年分のリターンが得られると考えてもよいでしょう。
この観点は「あと〇年保有するか、それとも今売却するか」という、具体的な選択肢の比較で考えることができるのがメリットです。
配当はこの先数年間も継続的に保有することで初めて得られるものですが、含み益は売却すればすぐに得ることができます。
これは、次項の内容にも繋がってきます。
観点3:どのくらい投資の機会が拡大するのか?
この戦略による投資の機会については、大きく2つが挙げられます。
1つは「リターンを前倒しして、それを他の銘柄へ投資できること」による投資機会の拡大です。
前項でも述べた通り、前倒しして利益を得られればその間に他の銘柄に投資することが可能です。
そのため、継続保有するよりも大きなリターンを得られる可能性があります。
高配当銘柄への投資を追求するのであれば、利益確定して別の高配当銘柄へ投資するという方法も考えられます。
もう1つは「売却後に株価が下がった場合は、買い戻すという選択肢が生まれること」による投資機会の拡大です。
配当利回り4%の銘柄を例に挙げると、「5年以内に20%の含み益が消滅する可能性」というのは、意外と高いものだと考えています。
これを言い換えると、もし5年以内に何らかの要因で含み益が消滅する可能性が高いならば、一旦売却しておけばよいということです。
ここ1年でも新型コロナにより大きく下落した機会がありますし、5年もあれば株価が大きく下落するイベントは珍しくありません。
買い戻したいのであればずっと指値を入れておけばいいだけなので、タイミングを見計らう必要もなく、容易に実行できます。
こういったことを考えると20%の含み益で一旦利益確定することはとても合理的であると考えます。
この戦略が適する銘柄の例
2021年6月時点で、この戦略が適する銘柄を挙げます。
[9511] 沖縄電力
4.3%程度の配当利回りであり、インフラなので今後も継続的な収益が見込めます。
配当に関しては60円にこだわりがあるようで、分割して60円を継続(実質増配)したり、多少収益が落ちても60円をキープしています。
新型コロナによる観光需要の減少で売上が低下していますが、一株益(EPS)の見通しは86.4円となっており、観光需要の落ち込みがあっても配当はキープできる水準です。
逆に言えば、観光需要の回復により収益性を回復できる余地が大きいのはプラスとも言えます。
また電力系の中では唯一、原子力発電所を保有していない電力会社でもあるので、そういったリスクにも強いです。
沖縄の人口は2030年頃まで増加が予想されている(4ページ)ということからも、5~6年で収益源が大きく縮小することもなさそうです。
一方、火力発電所による二酸化炭素排出が多いのは逆風のトレンドですが、5~6年で大きくマイナスになることはないでしょう。
このように、高配当をキープできる収益性があり、5~6年で市場が縮小する可能性も小さいことから、沖縄電力はこの戦略に適合するといえます。
[8410] セブン銀行
4.7%程度の配当利回りであり、ビジネスモデルが優れていることから今後も継続的な収益が見込めます。
新型コロナによる需要の落ち込みはありましたが、配当に関しては減配せずに11円をキープしているようです。
一株益(EPS)の見通しは16.8円となっており、現在の収益性であれば配当はキープできそうです。
またキャッシュレス決済の普及による市場の縮小という不可逆なトレンドがありますが、現状でも利益を出せていることを考えると、この先5~6年の収益源については問題なさそうです。
むしろ銀行のATMは撤去が進む可能性が高いこともあり、これはセブン銀行にとっては追い風になるでしょう。
このように、高配当をキープできる収益性があり、5~6年で市場が大きく縮小する可能性も小さいことから、セブン銀行はこの戦略に適合するといえます。
この戦略が適さない銘柄の例
逆に、この戦略が適さない銘柄の例も挙げておきます。
[4902] コニカミノルタ
5%付近の高配当利回りですが、この戦略には適しません。
というのも、複合機市場は大きく縮小を続けており、今後数年の収益性には大きく疑問が残るためです。
複合機の市場縮小は徐々に進んでいたところですが、特に新型コロナによるリモートワークの普及は決定打となりました。
仮に人がオフィスに戻っても、電子化されたドキュメントが紙に戻ることはないでしょう。
高配当銘柄ではあるものの、最近の収益性には疑問で、5年先の見通しはかなり不透明です。
複合機は元々かなり収益性の高いビジネスモデルであったため、これに代わる事業を探すのは容易ではないでしょう。
[2914] 日本たばこ産業
6~7%という超高水準の配当利回りで有名なJTですが、この戦略には適しません。
というのもタバコの市場は大きく縮小を続けており、タバコに代わる収益源も見つけられていない状況であるためです。
最近はついに減配し、これからも株価の下落と減配が続く可能性があります。
高配当銘柄ではあるものの、収益は右肩下がりで株価の下落が見込まれるため、この戦略を適用してもうまくいきません。
どちらかといえば、ナンピンする戦略のほうがうまくいく可能性があるでしょう。
まとめ
「配当利回りが4%以上の銘柄において、20%の含み益が出たら利益確定する」という戦略を紹介しました。
こうすることで、インカムゲインを狙いつつもキャピタルゲインも視野に入れた投資を行うことができます。
また、数年分のリターンを即座に得ることができるため、投資の機会拡大につなげることができます。
銘柄の選定さえ誤らなければ、低リスクで利回りを高めることができるのでオススメです。